歯科医師
「妥協できるところ」と「譲れないところ」を明確に 1階開業は広告効果大
開業年齢:45歳
標榜科目:歯科
開業形態:ビルテナント
開業に至ったのは、以前勤務していた病院が事業縮小するということが大きな理由でした。病院側からは、個人的に残ってほしいとの打診があったわけですが、抱えていた部下たちが辞めさせられる中、自分だけ残ることはできなかった。また、歯科という業界の将来性を考えた時にここから長い間、勤務医を続けていくことが得策かどうか、それも開業するきっかけとなりました。
開業するにあたって資金や設備、場所やスタッフなどすべての面で100%満足できることなどありません。開業場所はビルテナントを探したのですが、私は高齢者医療を専門としていますので、患者さんのターゲットの中心を高齢者を考えていました。その選定にあたっては階もしくはエレベーター完備の2階、駐車場が広く確保できる-この2点を主眼に探してきました。そうした自分のコンセプトを明確に持つことによって物件については絞りやすかったですね。業者からは多くの物件紹介があります。事前にある程度の判断基準を持つことができていれば、その選定が楽になることは間違いありません。
私が開業場所にこだわったのは、患者さんのためだけではありません。いいスタッフを確保するためにはスタッフが通勤しやすい、駅から徒歩圏内の物件をと思っていました。スタッフの募集は新聞の折り込みで行ったのですが、おかげさまで質のいいスタッフを確保することができました。私が面接で重視した点は「経験」よりも「人柄」です。経験は歯科医院に勤めた後でも私の指導の下いくらでも積むことができる。人柄・性格は変えられるものではありません。患者さんが来院して一番最初に接するのはスタッフなわけですから、その応対は重要です。スタッフの対応は再び患者さんに訪れていただくために宣伝効果として非常に大きいと考えています。実は開業してから私自身、経営者としてもっと神経質になってしまうのではないかと心配していました。しかし開業して現在のところ大きなストレスを感じずに済んでいるのことも、財産であるこのスタッフの存在も大きいと思っています。
開業の準備段階に入れば、自分が行いたい医療を考え、物件や医療機器などすべて満足できるものを揃えたくなるものです。しかし、それでは資金がいくらあっても足りない。私は開業場所だけは譲れなかった。ですから本来であれば入れたかったレントゲン機器の導入をあきらめ、また、物件テナント内の内装についてもオーナーと相談しましたが思うようにはなりませんでした。結果的には支出を抑えることも考え妥協する部分も多く出てきました。開業する上では、やはり開業当初は患者さんが多く望めないことが大半かと思いますので、設備も人も「必要最低限」でスタートし、軌道に乗ってから拡張を考えても遅くないと思います。
医院の宣伝に関しては、開業前にポスティングなどいくつか実施しましたが、一番効果が高いのがこの「場所」です。最寄駅から数分の立地ですが、駅から私の医院に来るまでに歯科医院が数軒あります。しかし私の医院に来院される患者さんに伺うと「この辺は歯医者がないから」とその存在に気づいていないんです。それら歯科医院は2階にあったり、通りから看板が見えにくかったりと、何気なく歩いていると気づきにくいということのようです。私の医院は道路の三叉路にあり駐車場を広く設け、ビルテナントの1階に大きく医院名を出しています。実は医院の存在自体が一番の広告になっていることが患者さんからの聞き取り調査でわかったのです。住宅街が近いこともあり、通勤で駅に向かう方をはじめ地域の方の目に留まる、これは予想以上の効果をもたらしました。診療圏調査は、他の先生方に聞くと話半分もしくはそれ以下に考えておいた方がいいという話を多く聞き、私もそのつもりでおりましたが、税理士などを通じて行った診療圏調査で出された結果とほぼ同数の患者数があったこともこの効果の表れだと思っています。
飽和状態と言われる歯科医院数、そして今は物珍しさで来院しいただいているのかなとも考えると将来への不安は今でも拭えません。しかしそういった不安を持ち医院経営を行っていくことで、患者数のピークを今後迎えた時などリスクに直面した時、その備え、対処が変わってくると思っています。自分のできること、そしてできないことを見極め受け入れること、そして信念を明確に持つことが、現在の厳しいといわれる歯科医院開業にとって肝要だと考えます。